Home一級建築士事務所気密測定建物状況調査耐震診断設計料とご依頼の流れパッシブデザインとパッシブハウスプロフィールお問い合わせ
TEL 0178-20-8980

COLUMN / 2026.11.04

耐震等級3の家を、wallstatで揺らしてみた。

許容応力度計算で耐震等級3を確かめた家に、実際の地震の記録を当ててみました。計算に入れた耐力壁だけの場合と、計算に入らない腰壁や石膏ボードを足した場合で比べています。

結果:計算に入らない壁が、実際にはしっかり効いていました。

計算に入れた耐力壁だけ長い方向の1階 最大241mm
19cm傾いたまま残る
腰壁・石膏ボードを足すと長い方向の1階 最大57mm
ほぼ元に戻る

PREMISE

まず大前提:壁量計算では足りない

木造住宅でよく使われる壁量計算は、壁の量を数えるだけの簡単な確かめ方です。床や屋根の固さ(水平構面)は、まったく検討していません。

段ボール箱にたとえると分かりやすいです。側面がしっかりしていても、ふたが開いたままだと、箱はぐらぐら柔らかいですよね。ふたを閉めてガムテープで留めると、箱はぐっと固くなります。

ふたが開いた段ボール箱は横から押すとゆがみ、ふたを閉めてガムテープで留めた箱は押してもびくともしない様子のイラスト
ふたが開いた箱(左)は押すとゆがみ、ふたを閉めてテープで留めた箱(右)はびくともしません

許容応力度計算では、このふたの固さまで確かめます。家工房が許容応力度計算で耐震等級3を確かめているのは、そのためです。

LEVELS

wallstatは、さらにその先

構造の確かめ方には段階があります。下から順に、ざっくりこんな違いです。

  1. 壁量計算:必要な壁の量と、その配置のバランスを確かめるだけの簡単な方法。床・屋根の固さや接合部の強さは見ていません。
  2. 許容応力度計算:柱・梁・床・接合部・基礎など、部材一つひとつにかかる力を計算し、耐えられる範囲に収まっているかを確かめます。
  3. 保有水平耐力計算:大きな地震で建物が変形したとき、倒れずに踏ん張れるだけの粘りがあるかを確かめます。
  4. 限界耐力計算:建物の変形のしかたと地震の揺れの関係から、どこまで変形しても大丈夫かを確かめます。
  5. 時刻歴応答解析:実際の地震の記録を時間を追って当て、一瞬ごとの揺れ方を追いかけます。超高層ビルなどで、国の認定を取るときに使う方法です。

wallstatは、その時刻歴の考え方で地震の揺れを時間を追って当て、家が揺れて傾いていく様子を見られるソフトです。

MODEL

台形の壁が、そのままでは入らなかった

八戸市内で設計しているS様邸(「中居林の平屋のような家」)は、許容応力度計算で耐震等級3を取っている家です。せっかくなので、木造住宅の倒壊解析ソフト「wallstat」で、実際の地震の揺れを当ててみることにしました。

ところが、最初でつまずきました。この家は妻側の耐力壁が台形(屋根なりの斜めの壁)になっていて、そのままではwallstatに耐力壁として入りません。

そこで、斜めの壁の下に水平の梁を仮に足して、四角い壁として読み込めるようにしました。これでようやく、シミュレーションの土台に乗せることができました。

FIRST TRY

動いた!と喜んで見せたら……

まずは、許容応力度計算に入れている耐力壁の情報をすべて入れた状態で、一回揺らしてみました。

地震波は、2026年6月25日に階上町道仏(観測点の名前で、建設地ではありません)で観測された記録です。

ちゃんと動いたのがうれしくて、その動画をそのままS様にお見せしました。……これが失敗でした。

長い方向(X方向)の1階が大きく揺れて、最大で241mm。揺れが収まったあとも、19cm傾いたまま残る結果だったのです。

耐震等級3の家なのに? と、かえってS様を不安にさせてしまいました。説明が足りなかったと反省しています。

RESULT

計算に入らない壁を足してみると

でも、実際の家には、構造計算に数えていない壁がたくさんあります。そこで、次の三つを足して、もう一度揺らしました。

  1. 南面1階の、窓の下の腰壁
  2. 2階南側の低い壁で、計算のバランスのために外していた所
  3. 外周の耐力壁の室内側に張る石膏ボード(桁まで張る)

結果はこうなりました。動画は40秒で、変形は拡大せず実寸で表示しています。

長い方向(X方向)

計算に入れた耐力壁だけ:1階が大きく傾き、傾いたまま残ります
腰壁・石膏ボードを足した場合:揺れたあと、ほぼ元の位置に戻ります

短い方向(Y方向)

計算に入れた耐力壁だけ
腰壁・石膏ボードを足した場合
耐力壁のみ腰壁・石膏ボード込み
X方向(長い方向)1階最大241mm、19cm傾いたまま残る最大57mm、ほぼ元に戻る
Y方向(短い方向)1階1/881/106
Y方向 2階1/611/66

X方向の1階は、最大の揺れが4分の1以下になり、揺れたあとはほぼ元の位置に戻りました。計算に入らない壁が、実際にはしっかり効いているということです。

弱かったのは、窓の多い南面の1階でした。ねじれは設計どおり抑えられていて、建物全体がそろって傾く動き方でした。

LESSON

分かったこと

耐震等級3は、計算に入れた耐力壁だけで基準を満たしているという意味です。実際の家は、それに加えて腰壁や石膏ボードの余力で地震に耐えています。

裏を返せば、窓を大きく取る間取りほど、この「数えない壁の余力」は減っていきます。南面に窓を多くとる高断熱住宅では、特に気をつけたいところです。

計算書の数字だけでは見えないことが、揺らしてみると見えてきました。

NOTE

補足

  • この動画は参考のための検証で、法律上の確認に使う計算ではありません。
  • 腰壁・石膏ボードの強さは、合板の性能を倍率の比で縮めた仮定です。石膏ボードは実物の方がもろいので、大きく変形したあとの結果は甘めに出ています。
  • 北側の軒先が垂れて見えるのは、モデルの作り方によるものです。建物の評価とは関係ありません。

S様邸の設計の様子は、「中居林の平屋のような家」のページで紹介しています。構造や耐震のことで気になることがあれば、お気軽にご相談ください。