COLUMN / 2026.11.04
耐震等級3の家を、wallstatで揺らしてみた。
許容応力度計算で耐震等級3を確かめた家に、実際の地震の記録を当ててみました。計算に入れた耐力壁だけの場合と、計算に入らない腰壁や石膏ボードを足した場合で比べています。
結果:計算に入らない壁が、実際にはしっかり効いていました。
19cm傾いたまま残る
ほぼ元に戻る
PREMISE
まず大前提:壁量計算では足りない
木造住宅でよく使われる壁量計算は、壁の量を数えるだけの簡単な確かめ方です。床や屋根の固さ(水平構面)は、まったく検討していません。
段ボール箱にたとえると分かりやすいです。側面がしっかりしていても、ふたが開いたままだと、箱はぐらぐら柔らかいですよね。ふたを閉めてガムテープで留めると、箱はぐっと固くなります。

許容応力度計算では、このふたの固さまで確かめます。家工房が許容応力度計算で耐震等級3を確かめているのは、そのためです。
LEVELS
wallstatは、さらにその先
構造の確かめ方には段階があります。下から順に、ざっくりこんな違いです。
- 壁量計算:必要な壁の量と、その配置のバランスを確かめるだけの簡単な方法。床・屋根の固さや接合部の強さは見ていません。
- 許容応力度計算:柱・梁・床・接合部・基礎など、部材一つひとつにかかる力を計算し、耐えられる範囲に収まっているかを確かめます。
- 保有水平耐力計算:大きな地震で建物が変形したとき、倒れずに踏ん張れるだけの粘りがあるかを確かめます。
- 限界耐力計算:建物の変形のしかたと地震の揺れの関係から、どこまで変形しても大丈夫かを確かめます。
- 時刻歴応答解析:実際の地震の記録を時間を追って当て、一瞬ごとの揺れ方を追いかけます。超高層ビルなどで、国の認定を取るときに使う方法です。
wallstatは、その時刻歴の考え方で地震の揺れを時間を追って当て、家が揺れて傾いていく様子を見られるソフトです。
MODEL
台形の壁が、そのままでは入らなかった
八戸市内で設計しているS様邸(「中居林の平屋のような家」)は、許容応力度計算で耐震等級3を取っている家です。せっかくなので、木造住宅の倒壊解析ソフト「wallstat」で、実際の地震の揺れを当ててみることにしました。
ところが、最初でつまずきました。この家は妻側の耐力壁が台形(屋根なりの斜めの壁)になっていて、そのままではwallstatに耐力壁として入りません。
そこで、斜めの壁の下に水平の梁を仮に足して、四角い壁として読み込めるようにしました。これでようやく、シミュレーションの土台に乗せることができました。
FIRST TRY
動いた!と喜んで見せたら……
まずは、許容応力度計算に入れている耐力壁の情報をすべて入れた状態で、一回揺らしてみました。
地震波は、2026年6月25日に階上町道仏(観測点の名前で、建設地ではありません)で観測された記録です。
ちゃんと動いたのがうれしくて、その動画をそのままS様にお見せしました。……これが失敗でした。
長い方向(X方向)の1階が大きく揺れて、最大で241mm。揺れが収まったあとも、19cm傾いたまま残る結果だったのです。
耐震等級3の家なのに? と、かえってS様を不安にさせてしまいました。説明が足りなかったと反省しています。
RESULT
計算に入らない壁を足してみると
でも、実際の家には、構造計算に数えていない壁がたくさんあります。そこで、次の三つを足して、もう一度揺らしました。
- 南面1階の、窓の下の腰壁
- 2階南側の低い壁で、計算のバランスのために外していた所
- 外周の耐力壁の室内側に張る石膏ボード(桁まで張る)
結果はこうなりました。動画は40秒で、変形は拡大せず実寸で表示しています。
長い方向(X方向)
短い方向(Y方向)
| 耐力壁のみ | 腰壁・石膏ボード込み | |
|---|---|---|
| X方向(長い方向)1階 | 最大241mm、19cm傾いたまま残る | 最大57mm、ほぼ元に戻る |
| Y方向(短い方向)1階 | 1/88 | 1/106 |
| Y方向 2階 | 1/61 | 1/66 |
X方向の1階は、最大の揺れが4分の1以下になり、揺れたあとはほぼ元の位置に戻りました。計算に入らない壁が、実際にはしっかり効いているということです。
弱かったのは、窓の多い南面の1階でした。ねじれは設計どおり抑えられていて、建物全体がそろって傾く動き方でした。
LESSON
分かったこと
耐震等級3は、計算に入れた耐力壁だけで基準を満たしているという意味です。実際の家は、それに加えて腰壁や石膏ボードの余力で地震に耐えています。
裏を返せば、窓を大きく取る間取りほど、この「数えない壁の余力」は減っていきます。南面に窓を多くとる高断熱住宅では、特に気をつけたいところです。
計算書の数字だけでは見えないことが、揺らしてみると見えてきました。
NOTE
補足
- この動画は参考のための検証で、法律上の確認に使う計算ではありません。
- 腰壁・石膏ボードの強さは、合板の性能を倍率の比で縮めた仮定です。石膏ボードは実物の方がもろいので、大きく変形したあとの結果は甘めに出ています。
- 北側の軒先が垂れて見えるのは、モデルの作り方によるものです。建物の評価とは関係ありません。
S様邸の設計の様子は、「中居林の平屋のような家」のページで紹介しています。構造や耐震のことで気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
